☆アメリカのマーケティング事情について、NY在住ライター須能玲奈さんにレポートいただきました。

ハンバーガー、ピザ、ステーキにコーラと、アメリカを代表する食べ物はどれもカロリーが高いものばかり。
一方、「見た目がビジネスの成功を左右する」とまで言われ、外見の美だけでなく、内面からの美に対する意識も高い人が多いニューヨークでは、健康的な生活スタイルへの注目が今まで以上に高まっています。今回は、ニューヨーカーの間で圧倒的に支持されている食やフィットネスのトレンドを取り上げます。

1)食べ物トレンド

アメリカの会社で働き始めて間もない頃、いつもおしゃれに気を使っている同僚のアメリカ人女性が、お昼に食べるものを慎重に選び、ときにはサラダしか食べていない現場を目撃しました。アメリカ人はカロリーが高い食事を好むものと思っていたのですが、イメージが大きく変わりました。
「多くの種類の食材を少しずつバランスよく食べる」という日本のような考え方が浸透していないアメリカ。「体型維持のためには、とにかくカロリーが低い食事をしなければいけない」といった考えが、いまだに広く普及しています。

Chop’t:サラダ文化に風穴を開けたチェーン店

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太ることを恐れる女性たちのランチは、低カロリーのサラダが中心。すらっと長い手足で颯爽とマンハッタンの街を歩く女性たちの美は、涙ぐましい努力の上に成り立っているのです。
一方、このような経緯から「女性的」というイメージが定着してしまったサラダ。男性たちの間では、なかなかランチの選択肢になりませんでした。

そんなサラダ文化に風穴を開けたのが、サラダチェーンChop’tです。
とても大きなサラダボウルがChop’tのシンボル。

Chop’tの共同経営者トニー氏は、「2001年にマンハッタンにサラダだけの店を開いたのは大きな賭けだった」とその当時を振り返ります。しかし、Chop’tはオープン直後から人気を博し、お昼時には、お店の外にまで長蛇の列ができました。
オーダー方法は大きく2通り。メニューにあるサラダボウルの中から好きなものを選ぶこともできますし、自分で好きな野菜を組み合わせたサラダを注文することもできます。

「Chop(手早く刻む)」という名前の通り、目の前で店員さんが慣れた手つきで野菜を切り刻んで大きなボウルに詰めてくれる姿、そして、そんなサラダボウルを求めてお昼時に列をなすニューヨーカーたちの姿は、いまやマンハッタンでおなじみの光景となりました。

sweetgreen:サラダを「おしゃれな生活スタイルの一部」に

次々にライバルチェーンが登場して競争が過熱する中、サラダ文化をさらに新たな領域へと推し進めたのが、ワシントンDC発のサラダチェーン、sweetgreenです。
大学の友人同士だった男性3人が、2007年に起業しました。地元、ワシントンDC地区で人気を博し、過去10年の間に投資家から1億ドル近く(約110億円)の資金調達に成功。アメリカの大都市を中心に、着実に店舗を増やしています。

sweetgreenのコンセプトは、地元で生産されたオーガニック野菜を使ってシンプルでヘルシーなサラダを提供すること。メニューは季節に応じて変わるほか、地域によって採れる野菜が異なることから、東海岸と西海岸の店舗では同じメニューでも中身が若干異なります。画一的なメニューが当たり前であったファーストフードチェーン業界に、新しい風を呼び込みました。

また、有名レストランのシェフとタイアップしたメニュー開発や、音楽イベントの開催、店舗を構える都市ごとの「community ambassador(コミュニティ大使)」の任命、sweetgreenのファンに向けたさまざまな催し物の企画なども行っています。
sweetgreenは、野菜を「食べること」から「おしゃれな生活スタイルの一部」へと、サラダの概念を発展させることに成功しました。

流れ作業でスタッフが手際よくサラダを作ってくれます。おしゃれで清潔感あふれる店舗も人気の一つ。

 

Dig Inn:健康どんぶり「ランチボウル」文化の誕生

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いつも時間に追われていて、ランチも自分の席で仕事をしながらささっと食べることが当たり前のニューヨーカー。手軽に食べられてカロリーが低いサラダは、一躍ランチの代名詞となりました。
そんな中、2011年にニューヨークで生まれたDig Innは、サラダの枠を超えたランチボウル文化を定着させて、急成長しています。
Dig Innでは、ベースの食材を玄米、葉もの、キヌアから選び、その上に乗せるトッピングを3種類選んで、自分のボウルを完成させます。
サラダよりもバラエティーに富んだ内容でいながら、手軽に食べられるDig Innのボウル。男女問わず多くのニューヨーカーの支持を得ています。

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Dig Innの特徴は、地産地消にこだわり、地元の農家と直接契約を結んで食材を調達していることです。1回限りの取引が一般的な通常の外食チェーンと異なり、一つの農家との契約は最低でも6週間。一定量購入することを約束します。

Dig Innにとっては、固定価格で食材を調達できるメリットがある一方、農家にとっては経営の安定につながり、相互にとってwin-winのビジネスモデルとなっています。形が悪くてスーパーで売れない野菜も積極的に調理し、食材のロスをなくすことに力を入れていることも注目に値します。

店員さんが流れ作業でボウルを作ってくれるため、大混雑のお昼時でも待ち時間は短いですが、オンラインでの注文システムも充実しています。事前にネットで注文してクレジットカード決済をし、ボウルが完成する10~15分後に急いで店舗に取りにくるニューヨーカーもよく見かけます。

Joe & The Juice:フレッシュジュースで手軽に栄養を摂取

日本人と比べて圧倒的に料理が苦手、さらには料理をしないという人も多いニューヨークでは、手軽に栄養をとることができるヘルシーなジュースもここ数年大人気で、数々のチェーン店がしのぎを削っています。
素材のみずみずしさを維持したフレッシュジュース「コールドプレスジュース」のブームに火を付けたのは、2006年にマンハッタンに初の店舗を構えたOrganic Avenueでした。身内を白血病で亡くした女性が、健康的な食生活のために独自の製法で開発したジュースは、素材の味が濃縮された今までにない味わいで、ニューヨーカーを虜にしました。

残念ながら、投資家と創業者の経営方針の違いから、2015年に突然店じまいしてしまいましたが、Organic Avenueの躍進は、もともとニューヨークに店舗を構えていたJuice Generation、Liquiteriaといった既存のジュース店の発展に貢献しただけでなく、Joe & The Juice、Juice Press といった新たなジュースチェーンの登場も促しました。

中でも、最近マンハッタンで急成長しているのはJoe & The Juice。

家賃が高いため、テイクアウト専門や座席数の少ないコンパクトなお店が特徴となっている他のジュースチェーンに対し、デンマーク人の元空手チャンピオンがコペンハーゲンで始めたJoe & The Juiceは、ジュースだけでなく、サンドイッチなど軽食メニューも提供。インテリアにもこだわったおしゃれな店舗で、若者たちの支持を得て急拡大しています。

2)フィットネスのトレンド

食生活への意識も徐々に高まりつつあるニューヨークですが、それはごく最近のこと。
ニューヨーカーは従来から、ジムに熱心に通って体型維持に努めていますが、その傾向は今も変わりありません。

Equinox:オシャレ過ぎる!ステータスにもなる高級ジム


https://www.equinox.com/clubs/new-york/uptown/sportsclubnewyork

きれいなシャワー室を完備し、アメニティーも「キールズ」が置かれていたりと充実。最新の器具だけでなく、多くのクラスも揃えていることで知られる高級ジムEquinox。
早朝の出勤前から運動に精を出すニューヨーカーで賑わっています。スポーツ選手でなくとも専属トレーナーを雇って筋トレに励む人がいるのも、ニューヨークの特徴かもしれません。

Instagramにアップされている画像や動画も、まるでファッションブランドのようにスタイリッシュ。

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ニューヨークでは、高級ジムへ通うことは一種のステータスにもなっています。ジムのメンバーシップの割引を提供する会社もあるうえ、高級コンドミニアムには必ずジムがついています。
ジムへ通うことは、ニューヨーカーにとって生活の一部となっているのです。

SoulCycle:激しい自転車トレーニングで手早く成果を

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日本人と違い、こつこつと努力をすることが苦手なアメリカ人は、何でも手早く成果が出る方法を好みます。
激しい自転車トレーニングで知られるニューヨーク発のSoulCycleも、着実に店舗を増やしています。暗い部屋の中に所狭しと並ぶ競技用自転車に乗って、インストラクターの指示の下、クラブさながらの大音量の中で45分間自転車を漕ぐトレーニングを行います。
決して易しいものではありませんが、熱狂的なファンが仕事の前後に、熱心にスタジオへと足を運んでいます。
好きなインストラクターを求めてクラスへ通う人もいるほどの人気。

ヨガレッスン:瞑想する機会としても活用

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こうした過酷なトレーニングだけでなく、ヨガを生活の一部に取り入れている人が多いことも、ニューヨークの特徴かもしれません。
週末になると、自分のヨガマットを片手に街を歩く人を見かけることも多く、夏になると、タイムズスクエアやブライアントパークで大規模なヨガのイベントも開かれています。

アメリカでは、インストラクターが自らポーズをとってヨガを教える場面は少なく、落ち着いた声でゆっくりとポーズの指示を出しています。ときには、人生のアドバイスのようなことを話すインストラクターもいます。
男性の参加者も多く、フィットネスというよりも日々の喧騒を忘れて瞑想する機会を与えてくれる場として、ヨガのレッスンを受講している人も多いように感じます。
ブライアントパークでは、夏の間、無料のヨガのイベントも頻繁に開かれています。

3)まとめ

見た目への意識が高いニューヨーカーたち。日本人とは異なる健康への取り組みをご紹介しました。
以前からジムに通って身体を動かしていたニューヨーカーたちですが、最近はヘルシーな食生活にも意識が向いています。サラダボウルやコールドプレスジュースなど、手軽でカロリーの低い食が新たなトレンドとして広がっています。
この動きが今後どのような方向に向かっていくのか、目が離せません。

 

須能玲奈(SUNO, Rena)
東京出身。2009年からNY在住。日米の公認会計士として独自のリサーチ力と洞察力を生かし、ビジネスから文化、生活全般についてNYを切り口とした記事を執筆。NYを拠点に日本文化を発信するJ-Collabo(https://www.j-collabo.org/blog)とブルックリン専門サイトBrooklyn Calling(http://brooklyn-calling.net/)の専属ライター。

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